出張へきている千葉に建築家・中村好文が設計した美術館がある、との情報を姉から聞いていた。ネットで調べると、宿泊している茂原駅前からタクシーで一気に行くか、バス~タクシー乗り継ぎでいけるらしい。日曜日は仕事も休み、しかも朝起きてみると快晴。この二、三日みぞれまじりの雨模様だったので、気分も晴れて行くことを決意。
タクシーだと片道4000円以上かかりそうなので、バス~途中からタクシーで行くことに。
小湊鐵道バスで長南三叉まで行き、バス停の横にあるタクシー会社へ。
気のよさそうなおじいさん運転手に「あずいっといずまで行きたいんだけど」と言うと「はいはい、どうぞどうぞ」(←ほんとにワカッテルノカネ?)という不安もあったが、ほかに手段は無し、乗っかり出発。
「あそこはネ、結構若い子が団体で行ったりするのよ」なんて話をしながら、山道をスイスイ運転していく。
何度か乗せて行っているようなので、一安心。
で、ほんとにどんどん山の中に入っていく。
えらいところだなあ、帰れるかという新たな不安もわいてくる。
15分ほどで到着。
「じゃあ、ここで降りてくれるかな、あとはそこの道を歩いて一番奥まで行ってネ。すぐだから」
これもホントでした。「as it is」の看板のとおり歩くと、すぐその建物が現れる。
竹の生け垣で囲われた、外壁は漆喰塗りのこじんまりしたたたずまい。大きな引き戸をガラガラとあけると、ここのご主人(きれいな女性の方)が「いらっしゃいませ」と出迎えてくれる。お客はボクだけの様子(午前10時30分すぎ)
いま展示しているのは、古いリヤカー(日本製)、使い古した洗濯板(仏製)、紙でできたタンス(朝鮮製)など。これだけ見ると「?」が沸くでしょう。
そうなんです。ボクもどんな風にこれらを鑑賞すればいいのか?困った。
ひとつの展示物の前にはどのぐらいの時間立ち止まるのがいいのか?
フムフムと理解した風な顔をすればいいのか?
まるで東海林さだおのエッセイにあるような、あせる気持ちをかかえつつ、淡々と鑑賞を続ける。
しかもお客はボク一人。
ご主人も、この客(←ボクのこと)は、どの程度デキル客なのかを見ているのだろうな
と思うと、ますます窮屈な気持ちがわいてくる。
鑑賞物はどんどん混迷を深めるばかり。ピグミーの樹布→鉄兜→鉄の網→馬の爪切り
ふらふらになりながら、なんとか一通り鑑賞終了。
まだ、次のお客は来ない。
ボクの鑑賞が終わったのを見計らって、ご主人は「コーヒーか日本茶どちらにします?」と聞いてきた。
「あつ、じゃあコーヒーお願いします」
「そこから外へも出ていただけますよ」と庭へ通じる大きなガラス戸を指さす。
なんだ、いい人じゃん。
緊張する必要なかったなナア。ここで体の緊張を解いて、椅子にどさっと座る。
なかなかにおいしいコーヒーである。
落ち着いたところで、改めていろいろ見直してみる。
コーヒーを置いているテーブル、と思っていたが、これは臼をひっくり返して置いているのだな。ちょうどいい大きさと高さである。しかも、めちゃくちゃ古そうな代物。ほかのテーブルや椅子も全部種類が違う。共通しているのはめちゃくちゃ古そうということ。この場所にはぴったりとはまっている。
庭にでてみると、周囲の木立と見事に一体となっている。ここでご飯食べたらおいしいだろうな。
「置いている本もどうぞ読んでください」とご主人。
そこには無造作に、中村好文関係の本が積んである。(雑誌の特集や著作など)
そこで、しばらくコーヒータイムということで、何冊か読んでみる。
そうか、中村さんは人が本当に生活するための、しかも自然と共生するための建物を造ってきたのだ、ということがわかった。
それで、この展示物の意味もすこしわかったぞ。
各地の人たちが生活で使ってきたものを並べてることで、過去から今に至る生活がずーっとつながっていることを表しているだね。この建物のなかにぽんと置かれていたら何の違和感もないものばかり。造形的にも、使い込んだ故の美しさがある(ような気もしてきた)
ミサワホームに置いちゃうと違和感大ありだけどね。
中村さんは、建物のほかに家具も設計している。それらの作品物を写真で見ると、まさにここに置いてる展示物と、すごくつながっているのだ。
この美術館のオーナーが、中村さんに設計をオーダーするときに「自然に返すことができる素材で作ってください」とだけ条件を伝えたそうだ(と、いろいろご主人が教えてくれた)
そこで中村さんはこの2冊の本からインスピレーションを得て、この美術館を設計したという。
それは、朝鮮の古い民家の写真集(オールハングル、読めません!)
もう1冊は、アフリカの土でできた、これまた古そうな民家の写真集(オール○▲×語。読めませーん)
雰囲気はなんとなくわかる(ような気がする)
畳敷きの和室がなかにあるのだが(ここが一番落ち着く部屋)壁も天井も和紙が貼られている(朝鮮の家から着想している)オール漆喰の外壁、しかも壁の角が丸みを帯びていて角張っていない(アフリカの家っぽい)
こうして、すこしずつわかってくると面白いものだ。
いろいろなものが見えてくる、こっちも調子に乗ってご主人にこれはなにか?あれはなにか?
なぜ?どーして?といろいろ質問してしまった。
いやな顔せず、落ち着いて教えてくださりありがとうございます。
入館して1時間半、ようやく二人目のお客登場。
なじみの人らしく、三回目とか話している。わかるよ、もう一度来たい気持ちが(←おいおい、入ったときのアレはなんだったのか?)
続けてもうひとり登場
「いやー、迷ったよ~。運転手も知らないんだね、タクシーえらい前で降ろされて、看板見落としてずんずん行っちゃったよー」
年配のおじさんであるが、こんな山奥まで結構くるもんだね。
(出張中に来ているアンタが一番あきれるわ。すんませ~ん)


