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Friday, November 05, 2010

『 田舎の紳士服店のモデルの妻 』宮下奈都

いまボクが一番新作を待望している作家のひとり、宮下奈都の新刊がでた。
なんだか変わったタイトルだな。
「の」を3回も使ってる、ちょっと落ち着かないが、何か意図があるのだろうか?

さて、中身はというと。
夫が鬱病になり会社を退職、故郷である北陸の町へ家族で引っ越すことになった。
東京暮らしから、なにもない田舎の町へ。大きな不安を抱く梨々子。
そこから10年間の生活を一人称で綴っていく。
その、細やかな心情の描写がすごいのだ。
びしびしと彼女の悩みや喜び悲しみが伝わってくる。
近所づきあい、子供たち、義母とのやりとりなど、大きな事件は起きないけど日常には様々な心揺れる出来事があるのだ。
この丁寧で控えめな描写の積み重ねが、宮下奈都の真骨頂だ。
まだ本作品が5作目とはとても思えない風格と品格を備えた作品である。
自分をうまく表現できない梨々子の子供と、祖母(梨々子の母親)とのちょっとしたやりとりをサラリと描くことで、母親の心情を見事に読者に伝えるこのシーンはすごい。
母親の本性がちらりと覗いて、ぞくっとしたよ。

読み終わった時から、もう次回作品が楽しみ。
現在、ミステリーを連載中とtwitterで知った。

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