ミッション系の私立中学に通う冬木あさぎと、あさぎの街の郵便局窓口担当の中村さん、この二人が交互に日常を語ることによって紡がれる物語。
あさぎは両親の離婚、母親の再婚、再婚相手との同居、学校の友人などいろいろ悩みは多い。そんななかで、中村さんの笑顔を見ることが唯一ちょっと癒される瞬間だ。
一方の中村さんも、時々やって来るあさぎに「幼ごころの君」と密かにあだ名を付けていた。彼はあることに気を取られると、直前の行動も忘れてしまうことがあって、子供時代は常にいじめられてきた心の傷を抱える。今も、職場のひとに支えられてなんとかやってきたのだが、頼りにしていた人が去り、新たな上司もやってきて、なにもかもうまくまわらなくなる。
この小説がいいのは、とにかく二人を中心にした登場人物の、葛藤や心の揺れ具合を綿密に描いているところである。リアリティ感たっぷりなのだ。
だから、中学生のあさぎにも、継父としてやってきた冬木さんにも中村さんにも、すぐに感情移入できてしまう。
とくに小説前半部分がいい。あさぎの悩み具合が手に取るようにわかって、かなりぐっとくる箇所があちこちにでてきて、どんどんページもすすんでいくのだ。
後半にちょっと話が広がりすぎたようにボクは感じてしまったので、焦点が定まりにくくて感動も薄まったのが残念だった。
とは言っても、十分楽しめる。
遅いデビューの新人作家らしいが、次回作以降への期待がぐんと高まることは間違いない。
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